「自己破産」に関するQ&A
夫や妻が自己破産したら配偶者にはどのようなデメリットがありますか?
1 夫(妻)が自己破産をすることになった方へ
夫や妻から「借金があって自己破産しなければならない」と言われたら、「自己破産をしたらどんなデメリットがあるの?」、「配偶者である自分にも何かデメリットが生じるの?」、「家族の生活にはどんな影響がある?」など、いろいろと不安に思われる方もいるかと思います。
自分自身が手続をするわけではなくても、配偶者のことですから気になるのは当然です。
そこで、今回は、夫や妻が自己破産をした場合に配偶者や家族にどのような影響があるのかについて解説します。
2 自己破産する人自身に生じるデメリット
まず、自己破産をすると、申立てをした人にどのようなデメリットがあるのかについて見ていきます。
自己破産のデメリットとしてよく挙げられるものとしては、以下のようなものがあります。
⑴ ブラックリスト状態になってしまう
自己破産をすると大体7年程度は信用情報機関に事故情報として登録が残るとされています。
いわゆるブラックリスト状態です。
ブラックリスト状態になると、新たに借金をしたりクレジットカードを作ったりすることが難しくなるだけでなく、契約中のクレジットカードが解約されたり、更新できなくなることもあります。
⑵ 官報に名前や住所が載ってしまう
自己破産をすると、自己破産の手続きをとった人の名前や住所が官報に掲載されます。
官報とは、政府が一般国民に知らせる必要のある事項を掲載して発行される新聞のようなものです。
そのため、官報を見れば、自己破産をしたことが知り合いの人に知られてしまう可能性があります。
ただ、一般の方が日常的に官報を確認しているということはほとんどありませんから、現実問題としては、官報から知り合いに自己破産がバレてしまうという可能性はかなり低いと考えられます。
⑶ 所有する財産を処分しなければならない
自己破産は、自分の収入や資産で債務の返済ができなくなった場合に、資産を換価・処分して債権者に配当し、残った債務を免除してもらう手続きです。
ですから、手元に残せる一部の財産を除いて、原則としてすべての財産を処分することになります。
財産には、現金や預金、不動産や自動車はもちろんのこと、保険の解約返戻金や将来受け取れる退職金なども含まれます。
⑷ 資格制限により就けない職業がある
自己破産を申し立て、破産手続開始決定が出されると、自己破産の手続期間中(免責許可決定が確定するまで)、特定の資格を得ることができなくなったり、特定の資格が必要な職業に就けなくなったりします。
これは「資格制限」といわれています。
資格制限にかかる職業としては、弁護士、公認会計士、警備員、証券外務員、宅地建物取引士などがあります。
そのため、現在資格を使って働いている場合、異動など何らかの対応をとらないと仕事を続けることが困難になる可能性があります。
ただし、一生その職業に就けないというわけではなく、免責許可決定が確定すれば、復権といって法律上の扱いが破産者から一般人に戻りますので、資格制限は解除されます。
⑸ 引っ越しや長期旅行などが制限される
自己破産をすると、一定期間、居住場所につき制限を受けることになります。
具体的には、破産手続開始決定時に裁判所に申告した住所から勝手に引っ越しをしたり、長期旅行に出かけたりすることが自由にできなくなります。
もっとも、事前に裁判所の許可を得る必要があるというのみで、引っ越しや長期旅行自体が禁止されてしまうわけではありません。
なお、居住場所の制限がされるのは、管財事件になった場合だけで、同時廃止の場合は居住場所の制限はありません。
⑹ 郵便物が管財人に転送される
自己破産を申し立て、管財事件となった場合には、破産者宛の郵便物はすべて破産管財人に転送されることになります。
転送された郵便物は後で破産管財人から返してもらえますが、管財人に開封されて中身を確認されることになりますので、その意味で通信の秘密が制限されることになります。
なお、転送される対象となっているのは、あくまで破産者の方本人宛の郵便物のみです。
3 自己破産をしたら家族にどのような影響があるのか
自己破産の申立てをした本人に生じるデメリットは上で説明したとおりです。
では、自己破産をした人の配偶者や家族にはどのような影響があるのでしょうか。
⑴ 保証人や連帯保証人になっていた場合
夫や妻の債務の保証人や連帯保証人になっていることもあると思います。
その場合、主債務者である夫や妻が自己破産をすれば、保証人や連帯保証人である配偶者に請求がいくことになります。
配偶者も債務の履行が難しい場合には、夫婦ともに破産を検討することになります。
⑵ 破産者名義の持ち家に住んでいた場合
上で説明したとおり、自宅を所有している場合、自己破産をすると、通常自宅を処分することになります。
ですから、破産者名義の自宅に住んでいる場合には、住み続けたいと思っても、家族も引っ越しをしなければならなくなります。
このように、破産者の保証人や連帯保証人になっていた場合には、影響を受けることを避けられませんし、破産者名義の財産が処分されることによって家族の生活にも事実上の影響が出る可能性があります。
ですが、それ以外に、配偶者や家族にデメリットが生じることは基本的にはないといえます。
例えば、配偶者や他の家族の信用情報に影響が出たり、資格が制限されたり、配偶者や家族名義の財産が処分されたりすることはありません。
4 自己破産と離婚
⑴ 借金の存在や自己破産は離婚理由になるのか
夫や妻の借金や自己破産をきっかけに離婚を考える人も少なくないかと思います。
では、借金の存在や自己破産は、離婚理由になるのでしょうか。
まず、協議離婚であればもちろん可能です。
夫婦がお互いに話し合って離婚するわけですから、理由や原因に限定はありません。
ですが、協議離婚ができない場合には、借金があることや自己破産をしたことだけを理由に離婚をすることは難しい可能性があります。
協議離婚が整わない場合は、調停離婚、調停でも合意できない場合は裁判離婚となりますが、裁判離婚が認められるには、民法で定められた法定離婚事由に該当する必要があります。
法定離婚事由は、①不貞行為、②悪意の遺棄、③3年以上生死不明、④回復の見込みがない強度の精神病、⑤その他の婚姻を継続しがたい重大な事由となっています。
借金や自己破産をしたというだけでは原則として法定離婚事由にあたりません。
ただ、浪費がひどく家庭を気にかけない、借金のストレスで暴力を振るうなどの事情があれば、婚姻を継続しがたい重大な事由があるとして裁判離婚が認められる可能性があります。
⑵ 自己破産直前の離婚の注意点
では、もし自己破産前に離婚するとなった場合、どのような点に注意すべきなのでしょうか。
自己破産をすると、破産手続開始決定時に破産者が保有している財産が換価・処分の対象となります。
そのため、あえて自己破産直前に離婚をして配偶者に財産分与で財産を渡し、自己破産によって財産を失うのを回避しようと考える人もいるかもしれません。
ですが、自己破産直前の財産分与は慎重に行う必要があります。
もちろん、離婚による財産分与は民法に定められた権利ですから、正しく行われた財産分与であれば、自己破産の手続で問題とはされません。
しかし、不当に過大な財産分与がなされたときには、後で破産管財人による否認権が行使され、その財産分与が取り消されてしまう可能性があります。
また、財産分与の制度を利用する目的で、偽装離婚をして、自分の財産を(元)配偶者に渡してから自己破産をしたような場合は、財産隠しをしたとみなされ、免責が不許可になったり、悪質な場合は詐欺破産罪として刑事責任を問われることになったりしかねません。
以上から、自己破産直前の離婚における財産分与は十分注意が必要となります。
5 配偶者の自己破産は弁護士に相談を
今回は、夫や妻が自己破産をした場合に配偶者や家族にどのような影響があるのか、自己破産と離婚の関係などについて、解説しました。
配偶者や家族に借金があったり、自己破産を検討していたりするとなれば、不安に思われることも少なくないかと思います。
また、自分が自己破産をすることで配偶者や家族に迷惑をかけてしまうのではと悩まれている方もたくさんいると思います。
ですが、借金問題は、何もせずに悩んでいても解決しないどころか、状況が悪化してしまうおそれがあります。
借金問題でお悩みがありましたら、まずは一度弁護士にご相談ください。
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